バランスの悪い男―――マキシム・コフトゥン
プルシェンコを最後にユーロ以外の主要大会でロシア男子が表彰台に上ることはめっきり少なくなった。
コフトゥンが2014-15シーズンのGPSで2連勝したことはロシアから見れば本当に久々の快挙だったはずだ。
ロシア選手権で優勝しながらユーロで結果を出せずオリンピック出場がかなわなかったコフトゥンから見れば自信になったことだろう。
しかしその後のGPF、ユーロ、世界選手権とその勢いは増しはしなかった。
ユーロは2位にはなったが、その後行われた四大陸の表彰台組から見れば(違う試合を比較してはいけないだろうが)決して褒められた点数ではなかった。
バランスの悪い男、やる気と期待と結果が空回りする男、マキシム・コフトゥンの今シーズンを振り返る。
中 国 杯 総合1位 243.34 SP1位 85.96 FS1位 157.38
エリックB 総合1位 243.35 SP6位 77.11 FS1位 166.24
G P F 総合5位 242.27 SP3位 87.02 FS5位 155.25
欧州選手権 総合2位 235.68 SP4位 78.21 FS2位 157.47
世界選手権 総合7位 230.70 SP16位 70.82 FS6位 159.88
平均 総合 239.068 SP 79.824 FS 159.244
得点だけ見れば後半疲れて多少落ちたが非常に安定した成績だった、かに見える。
しかし実際はSPもFSも安定せず、結果的に総合得点のみに帳尻があっただけだ。
それもシーズンが進むにつれて数字が落ちてゆくという決して選手的に良いとは思えない結果となってしまった。
GPFのFSの得点が低かったことを不満に思っているようなコメントを出して、自分の構成の悪さを検討するようなことがあったが、結局実行したものの有効な手段にはならなかった。
自分の理想とジャッジの目論見のずれを本人・コーチや周囲がどれほど理解できているのか。
持っているものは決して悪くないだけに何とも惜しいとしかいえないシーズンだったと思う。
<ジャンプ>
SP 予定構成 AS+3T 4T // 3A =34.25(中国杯のみ) 4S+3T 4T 3A =33.40(それ以降)
基礎点 GOE 減点 合計
中 国 杯 28.53 -0.78 27.75
エリックB 30.60 -5.14 -2 23.46
G P F 33.40 -2.29 31.11
欧州選手権 29.30 -3.86 25.44
世界選手権 14.60 1.43 16.03
平均 27.286-2.128 -0.4 24.758
予定構成をとれたことは一度も無い。
コフトゥンの一番理解できないことは昨季と同じ2クワド後半3Aをあっさり1試合でやめてしまったことだ。
2クワド3A構成が難しいことは確かで、それで3Aが安定し確実に獲得できるならともかく結局成功したのはユーロだけという・・・だったら後半のままでも良かったんじゃ?
難度を落としても成功しないエレメンツという印象をつけてしまっただけな感じだ。
それ以上に問題なのが4Tだ。SP単独ジャンプはステップ必須なのに飛ぶ前に1度ターンを入れるだけだ。ターンだけではステップではないから要素抜けになるのにGOE要件の兼ね合いなのかGOEが0か-1位にしかならないケースが多い。
きちんと入れている選手がいる以上公平にジャッジも要素抜け判定しなければ今後ジュニア上がりのとりあえずTESを稼いで上に行こうとする若手が増えてくる可能性がある。
きちんとした基礎技術を重視する傾向であるジャッジならば今後厳しくする必要があるし、コフトゥンもその要件をクリアすべきだ。中国杯・ユーロはあまりにも甘すぎる。
FS 予定構成 4S 4T 3A+3T // 3A 3Lz+2T 3Lz 3S+2T 2A = 67.06
4S 4T 4S+3T // 3A+Lo+3S 3Lz+2T 3S 2A 2A =69.83(ワールドのみ)
基礎点 GOE 減点 合計
中 国 杯 61.62 -2.99 -1 57.63
エリックB 67.06 2.77 0 69.83
G P F 57.86 3.34 0 61.20
欧州選手権 64.37 -3.81 0 60.56
世界選手権 66.64 0.51 -1 66.15
平均 63.074 -0.036 -0.4 63.074
予定構成が一度もこなせたことがないので当然得点も超えることはない。GPFで得点が低かったことで構成を変えたようだが結局3連続が入っただけでそう基礎点は増えていない。
3クワド3A1つは同じフェルナンデスより4点近く構成が低い原因は3Fと3Loが入らないから。
3Fについては今季エッジエラーが厳しくなったので重度のeなら入れる価値がないがいい加減3Loは入れるべきである。3Loが難しいならせめて2Loをセカンドかサードに入れるべきだ。
女子ですら5種トリプルを入れようとする風潮の中、男子で3クワドするトップ選手が4種トリプルではジャッジもPCSは出せないだろう。
世界選手権でSPに比べFSのPCSが大幅に下がったのは、つまりそういうことなんだろうと思う。
<スピン>
SP
基礎点 GOE 合計
中 国 杯 8.9 2.35 11.25
エリックB 8.4 1.06 9.20
G P F 8.9 1.93 10.83
欧州選手権 8.9 1.43 10.33
世界選手権 7.9 1.64 9.54
平均 8.6 1.682 10.282
中国杯は全般的に採点が高めだったので比較しづらいが、コフトゥンはスピンの基礎点が他の選手に比べて低い。
確実にレベルをとってなおさらGOEを獲得できないとジャンプだけの選手と思われてしまう。
なかなかジャンプを3つ揃えられないなら、スピンはしっかり押さえておきたい。
FS
基礎点 GOE 合計
中 国 杯 7.3 1.29 8.59
エリックB 7.5 0.33 7.83
G P F 6.8 1.39 8.19
欧州選手権 9.4 1.99 11.39
世界選手権 8.9 1.03 9.93
平均 7.98 1.206 9.186
レベル4を揃えたのはユーロだけ。SPでも書いたがコフトゥンはトップ選手の中でスピンの基礎点が低い。
それでこうレベルが揃えられないと偏った選手という印象が強くなる。またGOEも低いと言うことは技術的に低いと思われていると言うこと。
GOEはともかくレベルだけは常に4を揃えるようにしないと、印象の改善にはつながらない。
<ステップ>
SP
基礎点 GOE 合計
中 国 杯 3.9 1.50 5.40
エリックB 3.9 1.40 5.30
G P F 3.9 1.10 5.00
欧州選手権 3.9 0.60 4.50
世界選手権 3.9 1.20 5.10
平均 3.9 1.16 5.06
ステップは今季コフトゥンが最も成長した要素だ。レベル4をシーズンを通してとることができている。
スケーティングも昨年に比べずいぶん良くなっている。
身長もあり手足も長い、大柄のコフトゥンがダイナミックに動くことができればいいアピールポイントになる。今後もより一層スキルを磨いて欲しい。
FS
基礎点 GOE 合計
中 国 杯 5.9 1.90 7.80
エリックB 5.9 2.40 8.30
G P F 5.3 1.66 6.96
欧州選手権 5.3 1.50 6.80
世界選手権 5.3 0.94 6.24
平均 5.54 1.68 7.22
SPに比べ後半になるとレベルが落ちてくる。コレオと併せて加点が2行かないというのはトップ選手では低い方だと言うしかない。
FSはジャンプが多いのでステップまでは気が回らないと言うことか?
今は全ての要素をオールラウンドにこなせる選手が上位に来る時代だ。たかが0.6でもきちんと獲得していかないとスピンが弱い分もったいない。
<TES計>
SP
基礎点 GOE 減点 合計
中 国 杯 41.33 3.07 0 44.40
エリック 42.90 -2.94 -2 37.96
G P F 46.20 0.74 0 46.94
欧州選手権 42.10 -1.83 0 40.27
世界選手権 26.40 4.27 0 30.67
平均 39.786 0.662 -0.4 40.048
結局のところ基礎点しか稼げていない、それでいてきちんと予定基礎点が取れない、というコフトゥンのTESデータ。
PCSが案外出てはいるが基本的に彼は数年前の羽生タイプ、とりあえずまずTESを稼いでいくぜタイプの選手だ。それでこの戦果というのはちょっといただけない。まずはSPだけはジャンプ3つ確実に入るようにしないと。
せっかく今季は四回転の回転不足がほぼなくなったのだから、もう少し上のステージに上がって欲しい。
FS
基礎点 GOE 減点 合計
中 国 杯 74.82 0.20 -1 74.02
エリック 80.46 5.50 0 85.96
G P F 69.96 6.39 0 76.35
欧州選手権 79.07 -0.32 0 78.75
世界選手権 80.84 2.48 -1 83.32
平均 77.03 2.85 -0.4 79.48
平均が四回転のないブラウンとほとんど同じという面白い結果となった。
成功率から考えればクワドのうまみがない、といっていいに等しい。それだけ3Fと3Loがないのが大きい。
正直コフトゥンは高得点が出せる潜在能力はあるが実効性に乏しい選手でしかないということ、厳しい言い方だがすこしがんばる方向性を本人の希望とは変化させる必要がある。
<PCS>
SP
SS TR PE CC IN 合計
中 国 杯 8.32 8.00 8.39 8.46 8.39 41.56
エリックB 8.00 7.61 7.61 8.00 7.93 39.15
G P F 8.29 7.75 8.04 8.07 7.93 40.08
欧州選手権 7.86 7.18 7.54 7.75 7.61 37.94
世界選手権 8.25 7.79 7.86 8.11 8.14 40.15
平均 8.144 7.666 7.888 8.078 8.00 39.776
平均40というのは高い方といえる。スケーティングが良くなったという評価は十分されていると言うことだ。
PEが低いというのは癖が強いジャンプ前の動作などがあまりいい印象ではないと言うことか。
FS
SS TR PE CC IN 合計
中 国 杯 8.39 8.04 8.32 8.54 8.39 83.36
エリックB 8.14 7.64 8.11 8.18 8.07 80.28
G P F 8.21 7.39 7.89 8.00 7.96 78.90
欧州選手権 8.11 7.57 7.93 7.93 7.82 78.72
世界選手権 8.00 7.54 7.64 7.89 7.71 77.56
平均 8.17 7.636 7.978 8.108 7.99 79.764
飛べる高難度をどんどん飛んでいくコフトゥンとある意味真逆のアプローチをしているアメリカのジェイソン・ブラウン。年齢も近いこの二人が実は今シーズンほとんど点数が同じであることに気づいている人はいるだろうか?
ジャンプは当然コフトゥンが高いが、スピン・ステップでほぼ同じになる。PCSでもSPはほぼ同じ。
しかしトータルではブラウンが上回る。それはFSのPCSはブラウンの方がかなり高いのである。
自分の点数に多少の不信と不満があるようだが、コフトゥンとその陣営はそのあたりを検証しているのだろうか。
要素の少ないSPでは同じなのにFSでは2点以上ブラウンは上がる。(コフトゥンが下がっているわけではない、ワールドは別)
一般的にはそれなりにまとめればFSではPCSが上がるものだがコフトゥンはほぼ横ばい・・・FSは上げたくないというジャッジの判断があると言うことだ。
それについてコフトゥンはきちんと向き合わなければいけない。でないとジュニアから上がってくる新たな勢力に飲み込まれてゆくことになる。
ロシアも日本と同じ2枠。コフトゥンは羽生ほど安定していない。
<来期にむけて>
今季のコフトゥンの成長面はスケーティングの向上と四回転の回転不足がほとんどなくなったこと、そしてセカンド3Tがコンスタントに入るようになったことだ。確かに昨年と比較して伸びているといえる。しかし一方ではっきりとした課題を数多く持っている選手であるという事実は昨年から何も変わっていない気がする。
その一つである3連続ジャンプはワールドで今期初めてはいった。しかしそのジャンプ構成は前半4つはトップ男子、後半4つは女子といわれるようなものだった。いや、今やトップ女子選手は少しでも基礎点を上げるために後半にセカンド3Tを入れたり工夫している。
不格好な3A+Lo+3Sを入れるくらいならダブルでもいいからLoを入れるべきだ。その方がずっとジャッジの心証はいいはず。得点に不満を言う前に突っ込みどころをなくす、それがトップになろうとする選手の正しい姿だと思う。
あとはスピン。もう少しバリエーションを増やす必要がある。せめてフェルナンデスみたいにアップライトはSP・FSどちらかのみにした方がいいと思う。
技術的に他の選手に劣っている部分を一つでもなくそうとする姿勢がコフトゥンには何より求められている。