2014-15シーズンジャンプ成功率―――羽生結弦/FS編
2014-15シーズンの羽生結弦のジャンプ成功率を見る。今回はFS編。ジャンプの成功の定義はSPと同じ。
<FS>
予定構成
4S 4T 3F // 3Lz+2T 3A+3T 3A+Lo+3S 3Lo 3Lz = 74.72
初戦の中国杯で負傷し急遽昨年の構成に戻したがトラブル続きで結局そのままシーズンを終えることになった。とはいえシニアで今季出場した選手の中ではこれが一番強い構成である。負傷してもこの構成をやりきったのはやはり別格であるとしかいえない。
GOE0以上が中国杯3・NHK杯5・GOF7・全日本7・世界選手権6・国別8の36回。
成功率は 36/48=75%
こうやって数字だけ見るとやはり高く見える。羽生の場合きちんと降りるか転ぶか抜けるかしかないということか。小ミスはほとんど無い。
・4S 2/6 成功率33.33%
基礎点 GOE 減点 合計
中 国 杯 10.50 -2.86 -1 6.64 (転倒)
N H K杯 1.30 -0.06 0 1.24 (2S抜け)
G P F 10.50 2.43 0 12.93
全日本選手権 10.50 -3.00 -1 6.50 (転倒)
世界選手権 1.30 0.03 0 1.33 (2S抜け)
国別対抗戦 10.50 2.57 0 13.07
平均 7.433 -0.148 -0.333 6.952
成功か転倒か抜けか、羽生にはそれしかないと冒頭に書いたがまさしくそれを証明している結果である。加点付き成功2・転倒2・抜け2・・・見事に全て33.33%。
抜ける場合は100%2Sとなってしまうため9点以上損をすることにはなるが構成に響かないためあとはそのままやればいいのは救いだ。
そして昨季までとは違い成功の場合は高い加点がつく美しい着氷が出来ることになったのは大きい。あとは安定させるだけだ。3シーズンの努力が実り始めたといえる。
平均基礎点から見た出来高は93.53%、基礎点10.5から見た出来高は66.21%、微妙に転倒した場合よりも点数的には上になったがとりあえず来季は抜けを無くしたいところ。
・4T 2/6 成功率33.33%
基礎点 GOE 減点 合計
中 国 杯 10.30 -3.00 -1 6.30 (転倒)
N H K杯 4.10 -2.10 -1 1.00 (3T抜け転倒)
G P F 10.30 2.71 0 13.01
全日本選手権 10.30 2.60 0 12.90
世界選手権 10.30 -3.00 -1 6.30 (転倒)
国別対抗戦 4.10 1.00 0 5.10 (3T抜け)
平均 8.233 -0.298 -0.5 7.435
成功か転倒か抜けか、はここでも同じ。点数的には4Sより若干高いが実は4Sよりも痛かったのが4Tミスだった今シーズン。
羽生の場合4Sが抜けても2Sになるので後には影響ないが4Tは3Tになってしまうため構成を変えなければならなくなる。結果的に4Sの失敗よりも多くの点を失ってしまった。
中国杯での怪我から回復傾向であったGPFと全日本で取り返したと思われたがその後の手術で再び感覚がずれてしまったようだ。世界選手権と国別での失敗は羽生にとっては口惜しいものだっただろう。来季はまた元の美しい4Tを見せて欲しいと願っている。
平均基礎点からの出来高は91.31%、基礎点10.3から見た出来高は72.18%、後の構成の変化を考えると転倒したときよりはまし、といえない微妙な数字である。
・3F 5/6 成功率83.33%
基礎点 GOE 減点 合計
中 国 杯 5.30 1.00 0 6.30
N H K杯 5.30 0.70 0 6.00
G P F 5.30 1.20 0 6.50
全日本選手権 5.30 0.70 0 6.00 (!)
世界選手権 5.30 -0.10 0 5.20 (!)
国別対抗戦 5.30 1.40 0 6.70
平均 5.30 0.817 0 6.117
世界選手権での!でマイナスがついてしまったのでパーフェクトならず。6種類の中で今季唯一転倒がなかったジャンプだ。
もともとリップで修正してもフラットと判定されやすく前半に持ってきている策が功を奏しているといえる。他の選手で気にしすぎで抜けたり転倒したりするケースが多いので今後も入れ続けるならこのままの位置が良いだろう。
全て入ったため基礎点は同じ、出来高は115.42%、しっかりとした押さえどころになっていた。
・3Lz+2T 6/6 成功率100%
基礎点 GOE 減点 合計
中 国 杯 8.03 1.20 0 9.23
N H K杯 8.03 0.90 0 8.93
G P F 8.03 1.00 0 9.03
全日本選手権 8.03 1.54 0 9.57
世界選手権 8.03 0.70 0 8.73
国別対抗戦 8.03 1.10 0 9.13
平均 8.03 1.073 0 9.103
実は今季パーフェクトだったのはSP3Aを除きこれだけだという羽生のジャンプ。
SPのコンビネーションはあんなに苦労していたのに何で?という意見をシーズン中よく見かけたが、元々ここは4T+2Tのコンビネーションの予定だったのでジャンプ前のつなぎがほとんど無い。助走がしっかり取れれば3Lzを飛ぶのには問題ないしセカンドが2Tならば3Tほど苦労しないのだろう。実際SPでもGPFや国別でセカンドを2Tにしていれば成功していた可能性は高かったと思う。
3Lzには今季泣かされ続けたように見えるが地味に羽生を支えたのも3Lzだったわけである。
出来高は113.36%、コンビネーションというのは得てしてGOEが付きにくいジャンプであるからGOE1以上というのはかなり大きいといえる。
・3A+3T 5/6 成功率83.33%
基礎点 GOE 減点 合計
中 国 杯 9.35 -3.00 -1 5.35 (転倒・コンボ抜け)
N H K杯 13.86 1.86 0 15.72
G P F 13.86 2.29 0 16.15
全日本選手権 13.86 2.00 0 15.86
世界選手権 13.86 1.57 0 15.43
国別対抗戦 10.78 2.14 0 12.92 (セカンド2T)
平均 12.595 1.143 -0.166 13.572
コンビネーションはGOEが付きにくいって?と首をかしげたくなる羽生の3AのGOE。転倒による減点4とコンボ無し4.51を入れてもこれだけの平均が出せる。
中国杯における転倒は致し方ないが、その後の決して体調がよさげでない試合で全て決めたのは素晴らしいとしかいいようがない。この3Aの美しさがあるから羽生はトップに上り詰められたと言って過言ではない。
平均基礎点からの出来高が107.76%だが、元々の基礎点からだと97.92%とわずかに下回る。これは地味に国別の4Tが3Tに抜けてしまったためセカンド3Tが飛べ無くなったことが大きい。ザヤらなかったのは良かったが羽生の美しい3A+3Tが見られなかったのは残念である。
・3A+Lo+3S 5/6 成功率83.33%
基礎点 GOE 減点 合計
中 国 杯 14.52 1.71 0 16.23
N H K杯 6.38 0.00 0 6.38 (1A抜け)
G P F 14.52 2.14 0 16.66
全日本選手権 14.52 1.60 0 16.12
世界選手権 14.52 1.29 0 15.81
国別対抗戦 14.52 2.00 0 16.52
平均 13.163 1.457 0 14.620
今季羽生が初めて行ったこのコンビネーションが世界選手権で多くの選手達に使用されていたことが興味深い。やはりトップ選手が技術を進化させるという証明なのかも。ただ多くの選手が前半に入れている中で当初から羽生は後半で成功してきた。
5転倒もした中国杯でそれでも2位にとどまれたのはこのジャンプの成功が大きい。NHK杯が唯一の失敗ではあるがザヤる可能性に気付き考えがまとまらない中で抜けてしまった感じだったので通常は失敗しないジャンプと言っていいだろう。昨年の3Lzからの3連続に比べて観戦者としては安心してみていられるジャンプである。
平均基礎点からの出来高で111.07%、基礎点からでも100.67%とまるで失敗がなかったような数字である。
・3Lo 5/6 成功率83.33%
基礎点 GOE 減点 合計
中 国 杯 3.96 -2.10 -1 0.86 (UR転倒)
N H K杯 5.61 0.50 0 6.11
G P F 5.61 0.90 0 6.51
全日本選手権 5.61 0.98 0 6.59
世界選手権 5.61 0.50 0 6.11
国別対抗戦 5.61 0.90 0 6.51
平均 5.335 0.28 -0.167 5.448
中国杯のCBC放送でトレーシーが「ユズルが3Loで転倒するなんて・・・」と言っていたのが印象深い。その位3Loはミスしないジャンプだ。私もEXで手をついたのを見たことがあるが試合でミスしたのはすぐには思い出せない。(全くないわけではない)
ただ3Loは他の選手を見ても加点の付きにくいジャンプだ。5回成功させてもUR転倒減点を取り戻すことが出来なかった。
平均基礎点からの出来高は102.12%、基礎点から見ると97.11%、地味に転倒点が響いた結果となった。
・3Lz 3/6 成功率50%
基礎点 GOE 減点 合計
中 国 杯 6.60 -2.10 -1 3.50 (転倒)
N H K杯 6.60 -0.40 0 6.20 (着氷不良)
G P F 4.62 -2.10 -1 1.52 (UR転倒)
全日本選手権 6.60 1.26 0 7.86
世界選手権 6.60 0.90 0 7.50
国別対抗戦 6.60 0.80 0 7.40
平均 6.27 -0.273 -0.333 5.664
前半の3Lzの印象が悪かったのかSPでコンビネーションが安定しなかったからか実況のアナウンサーが全日本以降もこの最後の3Lzをやたら強調しているのが気になった。
中国杯はそもそも普通の状態じゃなかったしGPFは体力的にまだ回復途上だったのだから仕方ないだろうけど元々単独の3Lzはそれ程ミスはないジャンプだ。あまり大騒ぎして苦手意識をつけるのはどうかと思う。
来季は3クワドにすると3Lzは単独だけになりそう。でもやっぱり最後のジャンプにしそうだ。割合難しいジャンプから飛ぶ選手が多いが羽生の場合は冒頭から最後までまんべんなく高難度が入っているところが見ている人には面白いだろう。最後に大きなふんわり3Lzを見るとやったなという印象になる。成功率が高くてもそれは3Loには出せない達成感だ。
平均基礎点から90.33%、元の基礎点からは85.82%怪我でジャンプの成功率が今季は低かったと言っても3回転ジャンプの失敗はこの程度なのだ。
<FSジャンプまとめ>
・FSでの四回転の成功は4/12で33%、低いといっても4回転はどの選手でも確率はそれ程高くない。むしろ昨季の羽生の4Tの確率が高すぎたという方が正しいのかもしれない。(もちろん高いことに問題は無い)
・コンビネーションの成功率が実は高くて17/17の100%(1抜けGOE0有り)。中国杯で3Aで転倒して1回コンボが抜けているがこれを含めても17/18の94%以上の成功率を誇っている。ただ一人全て後半というコンビネーションであるが羽生の重要な得点源になっている。
・3AのFSにおけるトータル成功率は10/12(1抜け1転倒)83%以上と高い成功率を誇る。こちらも後半という難しい時間に実行してここまで確率が高いのも驚異的といえる。むしろ羽生が3Aで失敗したら驚く人の方が多そうだ。
・確率が悪い悪いと実況が言い続けた3LzもFSでは9/12で75%成功している。シーズン初頭の不調の時ならいざ知らずあまり不安をあおりすぎるのもどうかと思われる。
・三回転6種のの成功率は30/36で83%以上、転倒4回は少し多い気がするが単純に成功率としてみれば非常に高いといえる。
結局のところ今季羽生が勝ちきれなかった一番の原因は四回転が二本とも失敗するケースが多かったと言うことにつきる。中国杯・NHK杯・世界選手権がそれに当たるが、特にNHK杯と世界選手権は失敗が抜けであったことが響いた。昨季までの4Sの低い成功率で勝ってきたのは転倒してもGOE-3と減点だけにとどまらせたが基礎点そのものを損してしまうと羽生の高い構成の意味が無くなる。抜けは本当に痛い。
来季は3クワドにすると言うがフェルナンデス・コフトゥンを見てもなかなか3つ揃えるのは難しい。怪我に気をつけて成功率を上げるようにして欲しい。
その他のジャンプについては中国杯の転倒が響いているが基本的には高い成功率を保っていたことがわかる。練習不足であってもきれいなジャンプが飛べる羽生の基礎力の高さがよくわかる。体調さえ万全にしてくれれば特に心配は無いだろう。