2014-15シーズンジャンプ成功率―――M.コフトゥン/FS編
悩めるロシアチャンピオンマキシム・コフトゥンのFSジャンプ成功率を見る。
コフトゥンの出場試合は中国杯/エリックB/GPF/ロシア選手権/欧州選手権/世界選手権/国別対抗戦の7試合だが、ロシア選手権ではプロトコルが掲載されていないためそれを除いた6試合で計算する。
予定構成
4S 4T 4T+2T // 3A+3T 3A 3Lz 3S+2T 2A = 71.89 (中国杯)
4S 4T 3A+3T // 3A 3Lz+2T 3Lz 3S+2T 2A = 67.06 (エリック・GPF・欧州選手権)
4S 4T 4S+3T // 3A+Lo+3S 3Lz+2T 3S 2A 2A = 69.83 (世界選手権・国別)
GOE0以上は中国杯5・エリック7・GPF8・欧州選手権6・ 世界選手権6・国別6の38回。
成功率は38/48=79.17%。
単純な成功率では羽生やテンよりも上という結果に。ただ成功率が良ければ獲得点が多いというわけでは無いのが現在のフィギュアスケートである。各ジャンプを見ていく。
・4S 3/6 成功率50%
基礎点 GOE 減点 合計
中 国 杯 10.50 -3.00 -1 6.50 (転倒)
エリックB 10.50 1.57 0 12.07
G P F 1.30 0.00 0 1.30 (2S)
欧州選手権 7.40 -2.43 0 4.97 (UR)
世界選手権 10.50 1.71 0 12.21
国別対抗戦 10.50 2.00 0 12.50
平均 8.45 -0.025 -0.167 8.258
昨季までの四回転の回転不足気味着氷はかなり改善された。本人の言うとおり四回転が成功はともかく入るようになったことは確かだろう。ただ羽生もそうだが2種類をプログラムの中で成功させるほどにはまだまだなイメージだ。Sが成功してもTが駄目、またはその逆といった感じで2種を共に成功したのはエリックだけだった。来季はこの2種成功をもう少し確率を上げたいところだ。平均基礎点から出来高87.72%、元の基礎点からだと87.96とまずまずの結果に。
・4T 3/6 成功率50%
基礎点 GOE 減点 合計
中 国 杯 10.30 1.14 0 11.44
エリックB 10.30 1.00 0 11.30
G P F 10.30 1.71 0 12.01
欧州選手権 10.30 -0.71 0 9.59 (お手つき)
世界選手権 10.30 -3.00 -1 6.30 (転倒)
国別対抗戦 1.30 0.00 0 1.30 (2T)
平均 8.80 0.023 -0.166 8.657
URが無かった分基礎点が高いがほぼ4Sと同じ結果に。シーズン前半は成功率が良かったのに後半は全滅、お手つき・転倒・抜けとどんどん出来も悪くなっていく。4Sが成功率が上がっていくのとは相反して飛び方がわからなくなってしまった感じだ。羽生も言っていたが四回転とひとくくりで言っても全く感覚の違うものなのだろう。この結果をコフトゥン自身がどのように感じているのかを来季のプログラムで見極めたい。平均基礎点から出来高98.36%、元の基礎点からは83.17%。
・4T+2T 0/1 成功率0%
基礎点 GOE 減点 合計
中 国 杯 5.40 0.60 0 6.00
中国杯のみで行った構成。コフトゥンの謎な変更2だ。(1はSP3Aの位置)ジャンプ構成か偏っていて結局基礎点が高くないのだから3クワドのままで勝負をかけるというのはわかるが、成功率を考えて下あっさりやめてしまった。それでジャンプが安定・成功率が上がったかというと・・・。四回転の成功率は誰よりも高いと自分で言っている割にはそうとは思えない選択である。出来高は51.72%。
・4S+3T 2/2 成功率100%
基礎点 GOE 減点 合計
世界選手権 14.60 1.43 0 16.03
国別対抗戦 14.60 1.43 0 16.03
平均 14.60 1.43 0 16.03
再びシーズン後半に3クワドにした際には4Tでは無く4Sとなった。SPでもやっている構成であるしシーズン後半は4Sの方が確率が高かったので妥当な手段と思われる。昨季まではセカンド3Tがなかなか入らなかったが今季はこれが出来るようになって得点を減らさないように出来ている。出来高は109.79%
・3A+3T 2/4 成功率50%
基礎点 GOE 減点 合計
中 国 杯 9.79 -1.00 0 8.79 (3A+1T)
エリックB 12.60 -1.00 0 11.60 (着氷つまり)
G P F 12.60 0.29 0 12.89
欧州選手権 10.78 0.00 0 10.78 (3A+2T後半)
平均 11.4425 -0.4275 0 11.015
SPではとにかく悪かった3Aの成功率だかFSではまずまず入ってる。ただ着氷の際スピードが落ちがちでセカンドを減らす傾向にある。コンビネーションに苦手意識があるのかもしれない。ジャンプが偏っている以上できるジャンプで確実に稼がないと印象が悪くなるのは避けられない。3Aは100%近くにしたいところ。平均基礎点に対して出来高96.26%、元の基礎点に対して87.42%。
・3A+Lo+3S 1/2 成功率50%
基礎点 GOE 減点 合計
世界選手権 14.52 0.43 0 14.95
国別対抗戦 13.97 -2.57 0 11.40 (2nd<<)
平均 14.245 -1.07 0 13.175
シーズン終盤に入れてきたコンビネーション。3クワドとこれを入れて大幅に基礎点を上げたと思いきや代わりに3Aが2Aにランクダウンして結局あまりメリットになかったという不思議構成3。3-1-3コンボは昨季からザヤ対策もかねて増えたが見栄えのする人としない人ではっきり分かれる。コフトゥンはこれまで見る限り明らかに後者だ。これより先にするべきことがあると思うのだが来季も入れてくるのだろうか?基礎点から出来高90.74%。
・3A 2/4 成功率50%
基礎点 GOE 減点 合計
中 国 杯 9.35 -1.00 0 8.35 (お手つき)
エリックB 9.35 0.86 0 10.21
G P F 9.35 0.00 0 9.35
欧州選手権 8.50 -2.00 0 6.50 (SO前半)
平均 9.1375 -0.535 0 8.6025
LoとFの無いコフトゥンの構成はAが3回入る。得意かと思いきや成功率は半数程度。高難度で得点源かと思いきや3クワドにすると2回入れられない。今季は本当にSPと併せて3Aの成功が少ない。4Sは安定気味だが3Aが成功しなければ四回転の旨味はほとんど無いことはコフトゥンのシーズン通しての得点を見ればよくわかる。出来高92%。
・3Lz+2T 5/5 成功率100%
基礎点 GOE 減点 合計
エリックB 8.03 0.10 0 8.13
G P F 8.03 0.60 0 8.63
欧州選手権 11.11 0.60 0 11.71 (3Lz+3T)
世界選手権 8.03 0.00 0 8.03
国別対抗戦 8.03 0.40 0 8.43
平均 8.646 0.34 0 8.986
コンビネーションはGOEが付きにくいを地で行っているコフトゥンのプロトコル。最初のジャンプでスピードが落ちてしまいがちなコフトゥンのコンボは確かに加点はつけにくい。このまま成功率を維持し堅実に得点を挙げたいところ。欧州選手権でのリカバリは立派、他の試合でも出来るようにしたいところ。出来高111.91%。基礎点から100%を超えるのは初めてだ。
・3Lz 4/4 成功率100%
基礎点 GOE 減点 合計
中 国 杯 6.60 0.10 0 6.70
エリックB 6.60 0.00 0 6.60
G P F 6.60 0.20 0 6.80
欧州選手権 6.60 0.10 0 6.70
平均 6.60 0.10 0 6.70
コフトゥンはジャンプで稼ぐ選手だか、他のジャンプで稼ぐ選手ほど高得点にならないのは加点があまり付かないから。たぶんただ飛んでいるだけと思われがちなのだろう。特に後半になるとジャンプの大きさが無くなり着氷の流れも無くなる。一つ一つのジャンプの質を今一度見直した方が良いのではと思う。出来高101.52%。
・3S+2T 4/4 成功率 100%
基礎点 GOE 減点 合計
中 国 杯 6.05 0.10 0 6.15
エリックB 6.05 0.10 0 6.15
G P F 6.05 0.40 0 6.45
欧州選手権 6.05 0.20 0 6.25
平均 6.05 0.20 0 6.25
失敗はしないが評価もされないジャンプ、というのがコフトゥンの後半の構成。実際に見ても飛んで降りただけという印象しか無い。入り出に工夫を凝らすかジャンプそのものの質を上げるか、得点が低いと嘆く前に自分で磨く努力が必要だ。出来高103.31%。
・3S 0/2 成功率0%
基礎点 GOE 減点 合計
世界選手権 1.43 -0.06 0 1.37 (2S)
国別対抗戦 4.62 -1.00 0 3.62 (お手つき)
平均 3.025 -0.53 0 2.495
世界選手権以降構成を変えたため単独になったが体力的に厳しいのか2回とも失敗している。ただS4回構成の現状はフェルナンデスのオリンピックのようなザヤの危険性が高まる。きついだろうが3Aもしくは3Lzに変えるべきだろう。出来高は54%とかなり低めだ。
・2A 8/8 成功率100%
基礎点 GOE 減点 合計
中 国 杯 3.63 0.07 0 3.70
エリックB 3.63 0.14 0 3.77
G P F 3.63 0.14 0 3.77
欧州選手権 3.63 0.43 0 4.06
世界選手権 3.63 0.00 0 3.63
世界選手権 3.63 0.00 0 3.63
国別対抗戦 3.63 0.00 0 3.63
国別対抗戦 3.63 0.07 0 3.70
平均 3.63 0.106 0 3.736
3クワド飛ぶ選手が2A2回とは・・・とジャッジが思ったのかどうかは不明だが恐ろしいほどに加点が付かない。女子選手が最後に飛ぶことは結構あるがもう少し加点が付いたりするものだが・・・高さはないしきれいに着氷しても流れが無かったり確かに評価しにくいがそれだけじゃ無いのではと勘ぐりたくなるような卵売りプロトコルだ。出来高は102.92%。
<FSジャンプまとめ>
・四回転の成功率は9/15で60%。一番成功率が高い、訳では無い。基礎点から平均獲得点を見ると出来高70.52%はまずまずか。シーズン後半になって4Sの成功率が上がって得点を支えたが、構成が偏っている以上2種を成功させないと上位には残れない。
・3Aの成功率は5/10で50%。SPよりはましな結果だが結局今季伸びきれなかったのはここでも失点が多かったと言うことだろう。出来高90%と得点的にはまだ良かった結果だ。
・コンビネーションの成功率は14/18で77.78%。それ程GOEは付かなかったが出来高96.65%と基礎点だけは獲得した結果に。後半でも成功率は高かったのだから来季はもう少しGOEをつけたいものだ。
・3Lz以下のジャンプの成功率は21/23と91.3%と高い結果だった。しかし成功の1/3以上が2Aというのが何とも寂しい。出来高は99.89%とほぼ基礎点を確保しているが成功率から考えると100%を切っているのでもったいないとしか言えない。
難しいジャンプ順に飛ぶコフトゥンの構成。前半でミスすると得点的に取り戻せないのでシーズンを通して失敗が多い印象だった。しかしこうやって細かく見てみると案外後半ではミスは少ない結果だった。結局後半の構成が女子選手並みに弱いのとGOEが付かないので基礎点以上に稼げないということが前半のミスを打ち消せなかったということだ。
3クワドの強みがあっても結局そこそこの成績しか残せなかったのは3Loと3Fが無いことにつきる。飛べないジャンプがあると回数制限の問題から2Aを入れるしか無い。結局基礎点は下がるし印象も良くなくなる。来季は2種クワドや3クワドを目指す選手が増えそうだがコフトゥンはどうするのだろう。4種ジャンプのままで構成を上げるとすれは4クワドか4Lzを入れるしか無いが、現在でも後半ジャンプをやっと飛んでいる状況でやりきれるとは思えない。一番良いのは3Loと3Fを練習し入れることだ。でもそれが嫌なら入出の工夫とジャンプの美しさを求めるしか無い。飛びたいジャンプを飛びやすい方法でしか飛ばないのならこれ以上の成績をコフトゥンは望むことが出来ない。一度プログラムを北米系の振り付け師に委ねて見たらどうだろう。ロシアンの割にはコフトゥンの姿勢があまり良くないのでその辺りも矯正できると良いと思う。