つれづれなるままに・・・

日々の思ったことを綴っていきます。

時代の狭間の中で―――全米選手権に寄せて

MOIでアボットが優勝したものの全米出場はなし。そしてブラウン・ファリスと昨年の台乗りメンバーがWDといい話の出てこないアメリカの男子シングル界。
ここ数年アメリカだけソルトレイク時代みたいだなと思っていたが、特に今年はそのマイナス面だけが出てしまっている印象だ。

クーリックが4回転を決めて五輪王者になりSPで4回転が解禁になってから男子シングルは4回転を跳んで当たり前の時代になった。ヤクディン・プルシェンコ時代になってからはFS2本は当たり前、3本決めても優勝できなかった。


高難度化の結果、選手生命を危ぶまれる怪我が増加したという側面もあった。
新採点という採点方式の岐路に高難度化による選手の消耗を問題に感じていた陣営が基礎の充実を積極的に働きかけた。結果的にルールが4回転を飛ぶより3回転をミスなく飛んだ方が有利と感じるものになりバンクーバーをむかえることになる。
しかしながら男子シングルにおいて迫力ある4回転が失われるという状況はその魅力を失うことでも有りルールの修正と選手自身の基礎力のレベルアップ、更には若手の羽生結弦がTESの勝利により五輪王者になったことにより再び高難度化への流れが加速化された。


ロシアは元々4回転を跳ぶと言うことに意味を持たせる国であったし欧州でもその流れはあった。また日本も本田以降4回転を跳ぶことに抵抗を持たない国だった。
一方で現行の採点法を開発し主導した北米勢力は4回転をそれ程重要視してこなかった。美しいスケーティングと基礎に裏打ちされた技術こそがまず第一、そういう意識が強かった印象だ。
ところがカナダにはチャンという特別な選手が居た。誰よりも優れたスケーティングを持つ選手がその延長上に4回転を跳ぶ技術を身につけたことによりルール設定をした陣営とは異なる流れに動き出したことはもう一方の北米の雄であったアメリカにとっては誤算だったかもしれない。
チャンという強力な存在を倒すためにどうするか、4回転論争と併せて様々な陣営が攻略を検討した結果最も成果を出したものが羽生結弦という存在だった。それはもう高難度化を堰き止めることは出来ない流れを作られたという意味でもあったと思う。

 

ルール上決して得ではない中でも4回転を跳び続けたロシアや日本においては継続的に4回転を跳ぶ選手が現れている。チャンが当たり前に4回転を飛ぶようになったカナダでもすでに当然になりつつある。そしてそれ以外のいわゆるフィギュア強豪国以外の選手も上位に食い込むために4回転を装備するのは自然な流れだった。
一方で遅れたのがアメリカだ。もちろんアメリカでも4回転を跳ぶ選手はいる。しかし安定して飛べているのはアーロンくらいでアーロンの技術はいってみればアメリカ式フィギュアスケートとはちょっと色合いが異なる。スピン・ステップが上手いスケーティングの良いアメリカらしい選手で4回転を安定して降りられると言う選手は現状ではいないと言っても良い。リッポンは回転不足が多い、ファリスは身体的問題が多く波がある、アボットも試合での成功率は3割を切る・・・・・・選手一人一人のジャンプを見ていて感じるのはアメリカには4回転を跳ぶメソッドが確立されていないのだな、というもの。アーロンにしろネイサンにしろ結果的に飛べる選手が飛ぶことが出来るだけで何故飛べるのか飛べるようになるためにはどうしたらよいのかという理論が形成されていない。そう言い切ってしまうのも失礼だから別に言い方をすると理論はあるけど実行できていないあるいは実行できる状態にないというものかもしれない。

 

女子シングルにおいてここ数年ジュニア上がりのロシア選手が上位を席巻する現状が続いている。シニア以上の構成をもち新採点下に合わせたプログラムをミスなく滑ることでベテラン選手の表現力を上回ってしまうという状況だ。PCSそのものはあくまで技術の上に付けられるものという意識が強くなってきたこともその風潮を助長している。
そして今男子シングル界においてもジュニアの構成がシニアと同等、あるいは上回り始めている現状が見えてきた。ここから導き出される推測は、回転するという身体的感覚は若い方が付きやすいと言うことだ。勿論身体的成長を経て感覚を維持出来るかは別問題ではあるが、肉体が完成してから掴もうとするよりは体重の軽い10代の方が認識しやすいと言うことだろう。
ジャンプにいそしみやすいロシアや日本の若手は回る感覚を身につけながら基礎を向上させることも行っているが、基礎スケーティング重視のアメリカではそういったことが行われてこなかったのかもしれない。結果的にアメリカは総合230~250点代をとることの出来る選手は数多いが270以上を頻繁に獲得できる選手はいないという状況になってしまった。


しかし今現在のトップは300点以上である。勝つためには4回転を安定して複数入れる必要がある。また2016年はボストンワールドが開催される。アメリカ選手の台乗りは当然切望されるだろう。願望と現実の狭間において過度な負担を受けた選手が次々に負傷するという負の連鎖が今アメリカの男子シングルに作られているように思える。それはソルトレイク当時の現状と同じではないかと思うのだ。

その現状をどう打破していくのか、おそらくアメリカのスケ連も考えているだろう。ルール―変更の話題も出始めている。ただそれは数年後のことであり現状の解決にはならない。ただ少なくともアメリカの多くの男子シングル指導者達は考え方をもう少し変える必要はありそうだ。キャロルのGPSは賞金稼ぎのレースだなどという言葉は頑張っている選手達を思えば決して気持ちの良いものではない。

そんな中全米選手権が開催される。出場した選手は是非頑張って頂きたい。
予想順位は1位 アーロン 2位 ネイサン 3位 リッポンかなと思っています。表彰台に立てば四大陸やワールドへの道が拓かれる。母国のワールドには是非出場したいでしょうから精一杯良い演技をして欲しい。