つれづれなるままに・・・

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更に鬼が笑うことを考えている―――平昌シーズンのその後

今季シーズン開幕前、平昌後のシーズンから男子FSが7ジャンプになると聞いたとき、これで更に高難度化が加速するなと思った。ザヤ対策のため苦手でも入れていたジャンプを入れなくても問題なくなる選手が多いからだ。五輪後は引退する選手も多く出るから一気に世代交代するんだろう・・・そんな寂しい予感がした。

 

しかしここ最近いろいろな選手の最高難度構成を検討していて思ったのは、むしろこの7ジャンプ構成ははフェルナンデスやチャンのようなベテラン選手の方が有利なルールなのではないかということだ。
細かい部分はまだこれから確定するのだろうがジャンプが一つ減るというのはTESの基礎点が確実に一つなくなると言うことなのでPCSの優位性が高まるからだ。ついでにPCSが高い選手は基本GOEも高い傾向にあるため「エレメンツの質が良い」という点がより重要になるためだ。
そう思うとこの7ジャンプルールは高難度を飛ぶ若手に有利とは言い切れなくなってくる。

 

FSジャンプが7つになって30秒演技時間が短くなるルール変更はISUの時間短縮策だろうとしか当初は全く思わなかった。
コールからの演技開始までの時間が2段階に渡って短くなったし、有力選手が後半に確実に来るために世界ランキングでSPの最終組が確定されたり・・・そういうこれまでの変更がよりテレビ放映しやすくするためだったからだ。女子に比べて男子の時間が長いというのも結構やりにくい部分だったのだろう。以前から短縮される話は出ていたからついにその時が来たとしか感じなかった。

 

しかし構成をああでもこうでもないと検討し選手間で比較すると、案外これって高難度が飛べる選手向きじゃないかもと思えてきたのだ。
何しろ演技時間こそこれまでの1/9・30秒も短くなるのに減る要素はたったジャンプ一つだけなのだ。そしてジャンプは飛んで降りるのに1秒もかからない要素だ。

最近日本のメディアでは4回転の種類や回数ばかりが取りざたされているが、実はスケートファンから見れば新採点は高難度よりもむしろオールマイティであることの方が重要だと言うことを知っている。良くも悪くも長い間高難度vs完成度という無毛な論争を新採点になってから繰り広げられていたがそれを昨季の羽生がNHK杯とGPFの2試合で答えて見せた。難度も完成度もレベルも全てが大事、と。

スピンもステップも変わらないのにジャンプが一つ減るのだ。相対的にジャンプの価値が下がることになる。ジャンプで稼げるがスピンステップで取りこぼしの多かった選手は今後更に苦境に立つことになる。
そして現在のスピンステップのレベルは要件を満たすことで確定させるルールとなっている。スピンなら主に必要なポジションと回転数、ステップなら必要要素の数と認定。回転数もターンの数も甘いと認定されないケースが多いため今の上位選手は確実に確保するため以前より時間を掛ける傾向になっている。(その為ステップに時間を取り過ぎコレオステップが極端に短い選手が増えた気がする)。
今のところジャンプ以外の要素についての大きな改訂はないためこの傾向はしばらく続く。しかし演技時間は30秒も縮まるのだ。幾つかの要素においてあるいは要素間のつなぎを削る必要が出てくるわけだ。

女子は7ジャンプ・4分ずっとでやっているからたいした問題ないのでは?と思われるかもしれない。しかし女子は3A以上のジャンプを飛ぶ選手が基本居ない中で実施されている。3A以上のジャンプを複数飛ぶ必要のある男子選手とは同条件とは言えない。

例えばスピンを1回15秒×3、ステップを30秒、コレオを15秒と(ちょっと短めだが)仮定するとそれだけで1分30秒かかることになる。今までは8ジャンプに3分利用できたのが2分半で7つ飛ばなくてはいけなくなるわけだ。高難度を長い助走で飛ぶ選手は複数回入れれば助走以外何もしていないように見えてしまうだろう。TRには直撃だしINやCCにも響きそうだ。
逆に言えば元々つなぎも多く助走の短いジャンプを飛べる選手には影響が少ないというかむしろ追い風になるだろう。無理に高難度化しなくても高GOEを稼ぎ高PCSを得ることで基礎点の差を十分に埋められる。2A以上のジャンプの基礎点が確実に減るのだ。その分を若手がGOEで埋めるのはなかなか今のままでは難しい。

 

ジャンプを1つ減らす一番の理由は放映時間の短縮よりもむしろ偏りだしたTESとPCSのバランスを少しでも良くしようというものだったのだろう。
ただ一方で高難度化は確実に進むことになる。よりその傾向が顕著になればPCSの係数が変わるかジャンプの基礎点が下がることになるだろう。そうなればむしろベテランで安定した演技ができる選手の方が有利になる。

 

現在のルール下でPCS3強といえば羽生・チャン・フェルナンデスの3人。他の選手とこの3人はしっかりと一線が引かれている。プログラムの密度・実施を見ても妥当な結果だ。しかしチャンとフェルナンデスは年齢的に平昌が終わったら引退かなという感じだ。だが選手が多いカナダでもまだまだチャンを脅かすまでの選手はいないし、フェルナンデスはそもそも国内にライバルがいない。自国枠のからみもあるしもう少し続けてはくれないだろうか?そして羽生もソチの後平昌までといって話題が出ていたが、現在でも全く難度的に問題がないわけだし、7ジャンプ時間短縮は身体的な負担も減ることになるだろうからもう少し続けてはくれないだろうか?さすがに北京までは望まないが新しいルール下でベテランの経験と巧さ・強さで若手の追い上げをサラッとかわす姿を見てみたい。新ルールが若手・ベテランどちらに有利なのかぜひその演技で証明して欲しいと電卓をたたきながら考えている。