つれづれなるままに・・・

日々の思ったことを綴っていきます。

プレスリーと森の妖精(by織田氏)

先の記事でも書いたが今シーズン今の所FSを見ていることが多い。
ビチェンコ見てフェルナンデス見て羽生に行くのが主な流れでその後チャンに行ったりブラウンに行ったりまたビチェンコに戻ったりといくつかのFSの中で回っている。

 

フェルナンデスと羽生のFSを連続で見るといつも思うことがある。
「ハビのプログラム、上手くできているなぁ・・・」

 

別に羽生のプロが駄目と言うことではない。そしてフェルナンデスのプロを他の選手がやってこう思うかと言えばそうではないだろう。今季のプレスリーメドレーはまさにハビエル・フェルナンデスに良い評価を与えるためのプログラムの作りだと思うのだ。

 

フェルナンデスはつなぎも振付も多い難度も密度も高いプログラムを滑っている。しかし案外しっかりと休憩ポイントも押さえてある。完全にストップするところは2か所しかないが、スピードを抑えてゆったりと進みながら振付を見せるところなど息を整えられる場所が幾つか見受けられる。それが絶妙なポイントで配置されているので単に休憩としてだけではない幾つかの効果を生み出していると感じる。
一つはメリハリだ。スピードを落とした部分があることで早い部分も引き立つ。更にいくつかの曲をつないだメドレー曲なので変わったり転調するところでうまくポイントを合わせて観客とわかりやすく同調でき盛り上がりやすくなっている。
加えて言えばフェルナンデスと言う選手自身に対しての効果も多分にあると感じる。フェルナンデスが如何に練習をまじめにし体力をつけたとしても気質そのものまでは変わらないし変える必要もない。4分半もの長いFSを滑り出しからラストまでずっと集中を切らさないでいることなんて無理だろう。だから休憩というか息継ぎポイントを作る。最初はとにかく高難度のジャンプ3つに集中する。休憩ポイントで息を整える、それはすなわち次のセクションに進んだことに意味する。ここはちょっと楽をして良いところ、ここでの注意すべきはスピンの回転数、と言ったように息継ぎポイントごとに意識を切り替えることが出来る。フェルナンデスのような集中力をずっと維持し続けることが難しい性格の選手にはまだこれだけ(時間や気をつけるポイントが)あると思わせては駄目なのだ。もうこれだけしかないと思った方がずっと良い気分で取り組める。そういう意味でもこのプログラムの組み立てたウィルソンはフェルナンデスという選手を知り尽くした振り付け師であると言える。ファンとしては軽快な曲やコミカルは見慣れたからもっと別のタイプをと思ったりもするが、これならやりたいと前向きに取り組む姿勢を引き出すためにも本人に向いた曲を提供したほうがいいだろう。
そんなこんな色々検討した結果、上手く出来ているなぁという感想になる。現在のフェルナンデスの実力と魅力を最大限に魅せている。

 

そういう意味では羽生のプログラムはそういった上手い作りにはなっていない。ひたすら音に合わせてエレメンツを配置している。曲調もフェルナンデスほど盛り上がったり乗れるものでもない。完璧に音楽に合わせてノーミスすれば美しいものになるが高難度高密度すぎて困難さをまず感じてしまう。そういう意味では羽生にしかできない羽生だけが完成する可能性を持ったプログラムであるといえる。
ただスケカナ時点の羽生はそれが出来るほどの練習を積んでいるとは言いがたい。珍しくはっきり音に遅れラストのスピンでバランスを崩すことになった。いつぐらいから遅れ始めたのか確認したところすでに後半の4Sコンボの時点で遅れていた。遅れを生じそれを少し取り戻すことを繰り返し結局コレオのラストでは取り戻せなくなった感じだ。音で飛ぶことをこれまで見ていて知っていたからラストの3Lzが心配だったが意外なくらい綺麗な流れで着氷したので逆に驚いてしまったくらいだ。音に合わなくてもエレメンツをこなせたという意味ではスケカナは良い経験だったと思う。
羽生のプログラムにはフェルナンデスほど休憩や息継ぎポイントはない。唯一3Fの後、コンボ前に止まるところがむしろ違和感を感じてしまうくらいずっと動き続けるプログラムだ。あまり通しが出来ていなかったオータムでは最初から力を使いすぎて後半ばてばてになってしまった。スケカナは後半の体力とエレメンツの質にこだわったためか体力は維持出来たがオータムでは良かったステップが淡泊な印象になってしまったしスケーティングもそこまで良いとは言いがたかった。そんな感じで物足りなさを感じる出来ではあったがそれぞれ得るものも多かったと思う。滑り込みをもっと積めば多少ジャンプミスをしても崩れない美しいプログラムになる期待はある。
プログラムの全容を大凡見せたフェルナンデスより未完度が高いだけに完成形を期待したくなる。

 

プレスリーというある意味イメージしやすいフェルナンデスのFS、一方で羽生は具体的な何かではなく見る人それぞれ曲と滑りから感じる印象は違うだろうというプログラムである。ある意味で非常に対照的なプログラムを今季持ってきたわけだ。今のところ一歩も二歩もフェルナンデスが前にいる感じだが、羽生の中で道筋が整い怪我など大きなトラブルがなければ十分追いつくことは可能だろう。ここ何年も続いた二人の戦いが昨季以上の高いところで繰り広げられることになることを期待してそれぞれの完成形を見守っていきたいと思っている。