つれづれなるままに・・・

日々の思ったことを綴っていきます。

勝ち方を知った男―――ネイサン・チェン

五輪金メダルを予想したときネイサン・チェンという選択肢は私には無かった。シーズン全勝できていたからあるいは銅メダルの可能性はあるかもしれないその程度だった。

そういう予想になったの多少ジンクスの影響もあった。
こんな事を書くとそんなもの信じているの?と思われる方もいるかもしれない。曖昧で根拠も法則も無いもの、ジンクスとは得てしてそういうものだから。
ただ私はジンクスは信じる信じないとか当たる当たらないとかいうものではないと思っている。いくつかの結果が積み重なった上で言われるものならなぜそうなるのか検討したり該当するためにはどうすべきか考えたり利用したりするものだと思っている。
ソチ後から平昌五輪直前までのシーズンの結果や様々な条件を色々考察した結果、ネイサンが金メダルになることはほぼ無いだろうという結論になった。そう考えたのは主に2つの理由からだった。

 

1つ目の理由はネイサンには「経験」が足りない、と言う点。シニア2年目であるから単純な試合経験も少ない。ただそれ以上に不足した経験が彼にはあると思ったのだ。それは「大舞台で会心の演技で勝つまたは順位を上げた」と言う経験だ。


ペトレンコ以降の五輪金メダリストは10代でワールドのメダルを持っている。一方で女子とは違い男子シングルがはいきなり若手が上位に来ることは難しい種目だ。新採点になって若手の不利は旧採点より軽減されたがそれでも10代選手がワールドで上位に食い込むのはなかなか困難だ。シーズン一番の大舞台で並み居る表彰台候補より際立った演技を見せなければ表彰台に乗ることができない。ニースの羽生や2016年2017年のボーヤンがそうやってFSで順位を上げてメダリストの一角に連なった。それによってジンクスの一つの該当者となったわけだ。
ところがネイサンは優勝候補筆頭だったジュニアワールドは怪我で欠場してしまう。不幸なことではあったが結果的に勝つ機会を失ったことになる。その後シニアに上がり4CCで羽生に勝ち金メダル候補の一角として参加したヘルシンキは6位のまま順位を上げられなかった。同じく優勝候補でSPでミスをして同じくらいの得点に甘んじていた羽生が世界記録を出して逆転したことからみればネイサンにはその力がなかったと言える。シニアに上がって勝率は非常にいい選手だが自分の力で勝ちきった勝利と言う経験は五輪前にはできていなかった。「全力を出し勝ちきって勝つ」この経験がネイサンには絶対的に不足している、私にはそう思えたわけだ。それでは五輪というワールド以上の大舞台に勝つことはできないだろうとなったわけだ。

 

2つ目はネイサン自身やその周囲がそう言ったネイサンの弱点に気付いていないあるいはその重要性を理解していないと思えたことだった。
4CC・ロステレと2回羽生に勝ったこともあるかもしれないがとにかく高構成を安定して着氷できるということに重点を置きすぎて、五輪と言う特別な大会に挑む心構えや対応を理解できていないと感じた。結果的に五輪シーズンに勝ち続けてしまい周囲のメダル期待が高まりすぎてしまったこともそう言った部分をおざなりにしてしまったのかもしれない。「勝つ」という結果のみに意識が行き過ぎ「どう勝つのか」と言うことに目がいっていない、それでは特別な舞台で勝つということは難しいだろうと私には思えたのだ。

 

そしてネイサンは予想通り五輪の表彰台から漏れることになった。シニアに上がって以降最も悪い演技が団体SP・個人SPと出てしまいメダル候補から自ら脱落してしまった。スポンサーもたくさんついていたし母国の期待も大きかったからさぞかしショックだったろう。


それでも1夜明けたFSで1位になったことは彼にとって大きな事だったと思う。ミスもあったがあの演技はこれまで出来ていなかった「会心の演技」に近いものだった。メダル候補から脱落してしまった状況下だったからできたのかもしれないが一度できたということは又できる可能性も大きくなる。大事な舞台で高構成をやりきりそれに見合う高得点を得たことは今後につながる自信になるだろう。
実際ワールドで上位が総崩れする中、五輪FS並にまとめた演技を再び見せることが出来初タイトルを得た。得点もPBでは2位になる数字だ。約50点差の勝利は自分の力を自分自身にも見せつけることが出来たと言えるだろう。今後はもっと手ごわい選手になっていくかもしれない。


USクラシック     総合1位 275.04 SP1位 91.80 FS1位 183.24
ロステレコム  総合1位 293.79 SP1位 100.54  FS2位 193.25
Sアメリカ   総合1位 275.88 SP1位 104.12  FS2位 171.76
G P F   総合1位 286.51 SP1位 103.32  FS2位 183.19
五輪団体             (SP4位 80.61) 
平昌五輪個人  総合5位 297.35 SP17位 82.27 FS1位 215.08 
世界選手権   総合1位 321.40 SP1位 101.94  FS1位 219.46
平均       総合  291.662  SP平均 97.332  FS平均 194.33

五輪以外出場した試合全て1位となったシーズンだった。と言うか五輪だけは勝てなかったシーズンと言うべきか。本当はそれ以外に負けても一番欲しかったのが五輪の金メダルであったろう。過去の発言を聞いていてもネイサンにとってのフィギュアスケートは一種の手段なのだと思う。ここで素晴らしいキャリアを持ち更なる道に進む糧とする。その考えが悪いとは思わない。だが一方で危険だなとも感じる。自分の望むキャリアが得られなかったらどうするのか多少不安も感じる部分もある。
4CC・GPFそしてワールドと五輪以外のタイトルは全て得たことになったわけで五輪の金を求めるためだけに4年頑張り続けることが出来るのか。フィギュアスケートに対する思いがどのくらいあるのか、来季以降を見守りたい。

 

数字で見るとSPについては本当に五輪だけが悪かったことがわかる。ただそれによって最も大きな夢は潰えてしまった。五輪と言う場はネイサンの想定とは全く異なるものだったのかもしれない。
ただFSも含めて結局のところすべての要素を綺麗にそろえたことは一度もないシーズンだった。五輪・ワールドとPBは出したがそれは単純に高難度構成をやりきったという点で出された数字だ。4種6クワドを降りるということは確かにすごいことではあるが、一方でただジャンプを飛んで降りただけと言う印象も持たれてしまう演技でもあった。今後はミスをなくすこともそうだがそのジャンプをそこで飛ぶ意味があるのかを含めた「ネイサンでなければできない演技」をもう少し求めていって欲しいと願う。



<ジャンプ>
SP  4Lz+3T // 4F 3A = 40.78
         
         基礎点      GOE  減点    合計
USクラシック     30.06    1.24  0   31.30  
ロステレコム  40.78   -0.32  0   40.46
Sアメリカ   40.78    1.57  0   42.35
G P F   40.78    0.13  0   40.91
五輪団体    22.95   -3.17 -1   18.78
平昌五輪個人  34.28   -9.63 -1   23.65
世界選手権   40.78   -0.17  0   40.61
平均     35.773  -1.479 -0.285 34.009 

当初は後半2クワドでスタートしたもののすぐに降りる確率の高い構成に変えた。こういう判断は素晴らしいと思う。
そして五輪2戦の基礎点とGOEの悲しさが目立つ。GPS以降、五輪以外は基礎点をしっかり取っているからなおさら悲しくなってくる。
ただ一方で五輪を除いてもGOEはかなり少ない。基礎点が高いので折りさえすれば確実の上位に来れるということのみを求めたシーズンだったと言える。
着氷姿勢が前傾になりやすく単独のステップは薄いため現時点では高GOEは望めない。来季以降GOE幅が拡大するがこのまま基礎点のみ得える方策で行くかそれとも質を上げてGOEを求める方針に変えるのか、ワールドチャンプである以上できれば後者であってほしいと願っている。

FS 
        
         基礎点     GOE  減点    合計
USクラシック     66.66   8.40  0   75.06 
ロステレコム  82.17   4.37  0   86.54
Sアメリカ   70.44  -3.76 -2   64.68  
G P F   77.37  -1.23 -1   75.14
平昌五輪個人  99.01   7.67  0  106.68
世界選手権   99.01   7.63  0  106.64
平均     82.443  3.847 -0.5   85.79

五輪まではFSは決して良いシーズンとは言えなかった。4Loも降りて見せたが結果的にプログラムに入れることはなかった。
それにしても最も高難度の構成で五輪・ワールドを実行したことは本当にすごいと思う。TESの最高点が出たことも十分うなづける基礎点の高さだ。
現時点でここまでの高難度を安定して飛びきる選手がいない為わりとGOEをジャッジは奮発してくれる。ただそう言った選手は今後何人も出てくるだろう。GOEの幅も上がるからそうなった時ネイサンはどう対抗していくのか非常に気がかりではある。

 

<スピン>
SP
        基礎点   GOE    合計
USクラシック    9.3  2.20  11.50  レベル4 2回 レベル3 1回
ロステレコム  9.3  2.21  11.51  レベル4 2回 レベル3 1回
Sアメリカ   9.3  2.21  11.51  レベル4 2回 レベル3 1回
G P F   9.3  1.93  11.23  レベル4 2回 レベル3 1回
五輪団体    9.7  2.35  12.05  ALLレベル4
平昌五輪個人  9.3  2.14  11.44  レベル4 2回 レベル3 1回
世界選手権   9.3  2.00  11.30  レベル4 2回 レベル3 1回
平均    9.114 1.864 10.978

SPについてはキャメルでレベルを落とすことが多かった。ただある程度ネイサンのスピンに関して言えば安定して得点を確保できていると言える。
そこまで上手いとは言えないしポジションが甘いと感じることも多いのでまだまだ伸ばせる要素であると言える。シットポジションは割と腰高なのでもう少し姿勢を低くできるといいと思う。


FS
        基礎点   GOE    合計
USクラシック   10.2  2.70  12.90  ALLレベル4
ロステレコム  8.4  2.21  10.61  レベル4 2回 レベル1V 1回
Sアメリカ  10.2  2.57  12.77  ALLレベル4
G P F  10.2  1.85  12.05  ALLレベル4
平昌五輪個人 10.2  2.36  12.56  ALLレベル4
世界選手権  10.2  2.28  12.48  ALLレベル4
平均     9.90 2.328 12.228

FSの方がレベルが取れている結果に。SPで落としたので気をつけているということか。
GOEはついている方の数字だ。個人的にはレベル認定が甘目かなと思うこともある。それでも勢いを失わず廻るという点でGOEがもらえているのかなとは感じる。ただネイサンのスピンに曲は全く感じないのは残念だ。

<ステップ>
SP
        基礎点   GOE   合計
USクラシック     3.3  1.30  4.60  レベル3
ロステレコム  3.9  1.70  5.60  レベル4
Sアメリカ   3.9  1.80  5.70  レベル4
G P F   3.9  2.10  6.00  レベル4
五輪団体    3.9  2.00  5.90  レベル4
平昌五輪個人  3.9  1.40  5.30  レベル4
世界選手権   3.9  1.70  5.60  レベル4
      3.814 1.714 5.528

今季のSPの振付は非常に格好よくネイサンに似合っている。失敗した五輪では全く動けていなかったがそれ以外では良かったエレメンツだったと思う。
あとはもう少しスケーティングを磨き多少バタついて見えるところを無くしたいところ。


FS
        基礎点   GOE   合計
USクラシック     5.3  1.98  7.28  レベル3
ロステレコム  5.3  2.40  7.70  レベル3 
Sアメリカ   5.3  1.93  7.23  レベル3
G P F   5.3  2.26  7.56  レベル3
平昌五輪個人  5.9  2.50  8.40  レベル4
世界選手権   5.9  2.60  8.50  レベル4
平均    5.457 1.979 7.436

FSのステップについては今季はあまり印象に残らないものだった。最初に止まってポーズする処くらいかな?
曲もそれほど盛り上がるものでなく動きや滑りを見せるものでない為割と淡々と過ぎて行ってしまう感じ。ロングイーグルは本当に長くてイーグル好きには楽しめるが体力温存的に感じてしまう辺りがまだもう少し魅せる力が足りないかなと感じる。
極めて高難度をこなしているのでなかなかジャンプ以外に力を入れきれない部分もあるのだろう。しかしワールドチャンプになったことからもそれ以外の要素も少しずつ向上させてほしい。



<TES計>
SP  
        基礎点   GOE  減点    合計
USクラシック    42.66  4.74  0   47.40 
ロステレコム 53.98  3.59  0   57.57
Sアメリカ  53.98  5.58  0   59.56
G P F  53.98  4.16  0   58.14
五輪団体   36.55  1.18 -1   36.73
平昌五輪個人 47.48 -6.09 -1   40.39
世界選手権  53.98  3.53  0   57.51
平均    48.944 2.384 -0.285 51.043

合計数を見て割と普通と感じてしまうのが恐ろしい。ただSP100点超えが当たり前になってくるとTES50を超えるのは何ら不思議がない。
ただ一方で基礎点を見るとさすがに高いなぁと感じる。五輪で基礎点を落としているので平均50を割ってしまっているが、PCSが50点満点である以上基礎点でそれを上回ることは本来自然ではない。
そういう意味では結果的に合計点が基礎点を下回ってしまったことはSPについてそこまで良い演技がなかったというシーズンであったことがわかる。
ネメシスが良いプログラムだった分会心の演技がなかったことは多少残念に感じる。


FS
         基礎点    GOE  減点     合計
USクラシック     82.16 13.08  0    95.24
ロステレコム  95.87  8.98  0   104.85  
Sアメリカ   85.94  0.74 -2    84.68
G P F   92.87  2.88 -1    94.75
平昌五輪個人 115.11 12.53  0   127.64
世界選手権  115.11 12.51  0   127.62
平均     97.843 8.453 -0.5  105.796 

基礎点も凄いし合計点も凄い数字だ。ただ五輪まではばたばたした演技であったし、五輪後のまとめた物もひたすらジャンプのイメージしか残らなかったことが惜しく感じる。ただやはり高難度を着氷するということが勝利への近道であることを実感する数字になっている。
地元で行われたUSクラシックはともかく五輪とワールドでGOEが+10を超えた。係数×1のジャンプが7つあるということが大きいが高難度でもミスが少ないという点はやはり評価が高いといえる。
現在ジャッジは成功4回転については割とGOEを出す傾向にある。若手有利採点と言われその益を享受した形だといえる。ただジャンプの着氷などあまり良いと思わないものにもついているケースがあるのでそのあたりもう少し見栄え良くできるよう改善を期待したい。

 

<PCS>
SP
        SS  TR  PE  CC  IN  合計
USクラシック     8.85  8.80  8.85  8.95  8.95  44.40
ロステレコム  8.61  8.39  8.61  8.57  8.79  42.97
Sアメリカ   8.89  8.64  9.07  9.00  8.96  44.56
G P F   9.00  8.79  9.11  9.07  9.21  45.18
五輪団体    8.89  8.75  8.46  8.96  8.82  43.88
平昌五輪個人  8.46  8.32  8.14  8.57  8.39  41.88
世界選手権   8.82  8.75  8.93  8.89  9.04  44.43
平均       8.788  8.634   8.738    8.86     8.88     43.90

昨季に比べ平均がかなり上がった。正直これは良い出来というSPはないのにPCSが当初上がり続けたことが非常に疑問に感じた。確かにプログラムは似合った素敵なものだったのでそう言った効果も影響したかもしれない。それでも基礎力と言う点では昨季から格段に向上した印象がない分違和感を抱くケースが多かった。
ただ羽生や・チャン・フェルナンデスと言ったネイサン以上のSS巧者が出る試合だとミスもあったが低い傾向にある。そういう意味ではPCSの絶対評価と言うものに疑問を抱きたくなる。
あの滑らない五輪個人SPで42近く出るというのは妥当な数字なのか、他の試合より下がっているから良いというのだとしたら言い訳がましいと感じる。何を持ってこの数字を出すのかその基準を今一度きちんと定めてほしいと願う。


FS
        SS  TR  PE  CC  IN  合計
USクラシック     8.75  8.45  8.80  9.05  8.95  88.00 
ロステレコム  8.96  8.57  8.89  8.89  8.89  88.40
Sアメリカ   8.82  8.50  8.57  8.86  8.79  87.08
G P F   8.96  8.61  8.86  8.93  8.86  88.44
平昌五輪個人  8.82  8.32  9.04  8.79  8.75  87.44
世界選手権   9.32  8.96  9.25  9.25  9.14  91.84
平均       8.938  8.568   8.902     8.962      8.897   88.534

五輪よりTESは微妙に下がったのにワールドのFS得点が上がったのはPCSが4点以上も上がったから・・・ってありなのか?わずか1ヶ月で4.4点、各項目ほぼ0.5上がったことになる。プログラムの密度が上がったわけでもスケーティングが向上したわけでもないのに・・・
そういうことを書くとむしろ五輪が出番が早かったからPCSが低めだったというかもしれない。確かに今シーズンをこうして並べるとグダグダのGPFより低いのはおかしいかなと言う気がする。ワールドについてはあのボロボロ3転倒の宇野に88も出したから仕方ないとも思える。
ただ結局のところPCSがどういった基準でつけられているのか明確でない為これってどうなの?と思ってしまうのだ。実際この6試合だけ見てもこれで正しい採点なのかな?と疑問しか残らない。それでもシーズンラストに平均9点代に乗った。来季はワールドチャンプとしての演技を求められる。ぜひそれにふさわしい技術を示してさすがと思わせて欲しい。

 

<来季に向けて>
五輪以外の主要タイトルは全て得た。そして五輪は4年と言う時間の先にある。ネイサンはその4年をどう過ごすのか非常に気になってくる。
4Aを飛ぶ的なことをラファが言っているが、3Aの成功率もそこそこのネイサンが安定してプログラムに入れてくるとは想像しにくい。4Loのように一度だけ飛べるんだよ的に決めることもあるかもしれないが・・・それでネイサンのモチベーションは維持できるのだろうか?
来季からジャンプが1つ減り時間も短くなる。構成的にはネイサンはほぼ天井だ。基礎点も下がれば最高点の更新も難しい。その中でネイサンは何を目指しどう4年過ごすのだろう?今の所その姿が描きにくい状況だ。
個人的にはジャンプの着氷と前方に滑る際に前のめりになりやすい所を改善してほしいのだが時間はかかるだろうし点数に影響があるのか微妙なので手を付けないかもしれない。ネイサン自身がなりたい自分になるために努力し磨き上げていってくれれば全く構わないのではあるができれば息の長い魅せるスケーターとなるために基礎力を上げてほしいと願っている。