つれづれなるままに・・・

日々の思ったことを綴っていきます。

海賊は高みを目指す―――ネイサン・チェン

ジュニアワールド最有力候補と言われながら骨折のため棄権した。シニア入りが復帰になったが怪我の回復具合を案じるファンを尻目に4Lzと4Fをひっさげて大旋風を巻き起こすという大躍進のシーズンとなった。
4種類の4回転を自由自在に飛ぶ様は見ているものを興奮させた。更にシニア1年目にして四大陸というチャンピオンシップのタイトルをとった。
一躍優勝候補に名を連ねることになったネイサンのシーズンを振り返る。
 
フィンランディアT   総合1位 256.44 SP2位 87.50 FS1位 168.94
フランス杯   総合4位 264.80 SP2位 92.85 FS4位 171.95
NHK杯    総合2位 268.91 SP2位 87.94 FS2位 180.97
G P F   総合2位 282.85 SP5位 85.30 FS1位 197.55
四大陸選手権  総合1位 307.46 SP1位  103.12 FS2位 204.34
世界選手権   総合6位 290.72 SP6位 97.33 FS4位 193.39 
国別対抗戦           284.52 SP2位 99.28 FS4位 185.24
平均       総合   279.386 SP平均  93.331 FS平均 186.054
 
計算してみてあれっと思ったのはそれ程ボーヤンと変わりないなということ。平均で約5点(SP2点FS3点)ほど高いのだが構成そのものはネイサンの方が高いのでこの位ならあまり違いが感じられない。
それでもボーヤンに比べてネイサンの日本での報道が多かったのはやはり4回転を4種類飛ぶというわかりやすさと羽生に勝ったという点につきる。普通の公式戦ではボーヤンも宇野も未だに羽生に勝てていない。一方ネイサンは一緒の試合で戦った中で勝っていない選手はいないというシニア1年目にしてある意味の偉業を成し遂げた。年齢のわりに物おじしない落ち着いた精神力の持ち主だが五輪シーズンでもそれが貫けるか来季は真価が問われそうだ。
ジャンプの質という点ではボーヤンには劣るが種類という点では勝っている。高難度の急進派として来季もひた走る予感がする。怪我には気を付けながら質の向上も図って欲しい。
 
<ジャンプ>
SP  4Lz+3T 4F // 3A =39.55
         
         基礎点     GOE   減点    合計
フィンランディアT   39.55   -3.33 -1   35.22  
フランス杯   33.83    2.26  0   36.09
NHK杯    39.55   -6.00 -1   32.55
G P F   35.85   -4.40 -1   30.45
四大陸選手権  39.55    2.37  0   41.92
世界選手権   39.55   -0.29 -1   38.26
国別対抗戦   36.25    3.71  0   39.96
平均     37.733  -0.812 -0.571  36.35  
 
今季の最高難度・・・と言うかこれを超える難度は現行ルールではほぼ無いだろう。レベルと基礎点さえ確保してしまえばほぼ100点超えしてしまうと言う恐ろしい基礎点である。これを見てしまうとジャンプに偏りすぎと言われても仕方ないという感じだ。PCSが50点満点ならジャンプの基礎点は最高でも35点くらいに治まらないと釣り合いが取れない。
最高難度の構成のため転倒もそれなりにありまた着氷もいまいちという部分も多かった。しかし高難度4回転の場合上手く着氷すれば3回転よりGOEが付きやすいという傾向がある。シーズン後半にはステップからのジャンプ基準も緩くなってGOEがつきやすくなった。この数字を見てしまうと来季もとりあえず基礎点計画は継続しそうだなと感じる。

 
FS 
        
         基礎点     GOE  減点    合計
フィンランディアT   92.45 -10.65 -2   79.80 
フランス杯   81.70  -5.34 -2   74.36
NHK杯    85.65  -5.46 -1   79.19  
G P F   86.02   8.17  0   94.19
四大陸選手権  90.38   3.92  0   94.30
世界選手権   96.77  -5.87 -2   88.90
国別対抗戦   77.45   3.87  0   81.32
平均     87.203 -1.623 -1   84.58
 
なんと今季の7試合全てFSのジャンプ構成が違っていた。基本は4T2本の3種または4種構成だったが、つなぎに配慮が無いため自分の思うままに後半は構成を変えまくっていた。曲の表現とかプログラムの完成度的にどうなのかと思うが、若手のためかジャンプがまとまると気前よく点を出したためその傾向が更に強くなった印象だ。
ただやはり高難度のため転倒はトップ選手の中では多めとなりGOEと減点のマイナスが大きくボーヤンと1点も差がつかなくなった。
若手はマイナス面を甘く見る傾向は以前からあるが来季も同じように見てもらえるかはわからない。怪我の防止の意味でももう少し着氷がスマートになるといいと感じる。ステップアウトやオーバーターンまで行かなくても前傾の膝に悪そうなつまり着氷が多いのは気になった。
 

<スピン>
SP
        基礎点   GOE     合計
フィンランディアT   7.9  1.33   9.23  ALLレベル3
フランス杯   9.2  2.22  11.42  レベル4 2回 レベル3 1回
NHK杯    9.2  1.50  10.70  レベル4 2回 レベル3 1回
G P F   8.8  1.07   9.87  レベル4 1回 レベル3 2回
四大陸選手権  9.7  2.36  12.06  ALLレベル4
世界選手権   9.3  2.36  11.66  レベル4 2回 レベル3 1回
国別対抗戦   9.7  2.21  11.91  ALLレベル4
平均    9.114 1.864 10.978
 
ボーヤンとネイサンの数字を見比べると面白い。このSPスピンもほぼ同じ点数だ。しかし内容的には異なっている。レベルはボーヤンの方が安定していてGOEはネイサンの方が高めとなっている。スピンについてはGOEが付く方がお得なので長い目で見れば有利なタイプかもしれない。
ネイサン単体で見るとやはり転倒があった試合は低めになっている。転倒による体力消耗が関わっているのかもしれない。

FS
        基礎点   GOE    合計
フィンランディアT   7.4  1.08   8.48  レベル4・2・1 各1回
フランス杯   9.7  1.57  11.27  レベル4 2回 レベル3 1回
NHK杯    9.3  1.43  10.73  レベル4 1回 レベル3 2回
G P F   9.7  2.14  11.84  ALLレベル4
四大陸選手権 10.2  2.08  12.28  ALLレベル4
世界選手権  10.2  1.71  11.91  ALLレベル4
国別対抗戦   9.7  2.36  12.06  レベル4 2回 レベル3 1回
平均    9.457 1.767 11.224
 
FSスピンについてはボーヤンより高い得点となっている。
スピンの位置や構成はシーズン中にかなり変更があった。冒頭は前半にも入っていたが途中から全てジャンプが終了後になった。その方が精神的・体力的な負担が少なかったのだろう。プログラムとしては単調になってしまうが基礎点を確実に獲得することを優先したのだろう。ただ見ていて印象はあまりよくないので来季はその辺り工夫する必要があると思う。
スピンの組み合わせも後半から基礎点の最も高いものに変更された。これもとことん戦略を突き詰めた結果だろう。こなしきった精神力と体力は称賛に値する。
 
<ステップ>
SP
        基礎点   GOE   合計
フィンランディアT   3.9  1.40  5.30  レベル4
フランス杯   3.3  0.93  4.23  レベル3
NHK杯    3.3  1.00  4.30  レベル3
G P F   3.3  1.00  4.30  レベル3
四大陸選手権  3.9  1.70  5.60  レベル4
世界選手権   3.3  1.00  4.30  レベル3
国別対抗戦   3.9  1.40  5.30  レベル4
平均    3.557 1.204 4.761
 
ステップについてもボーヤンとほとんど変わらない数字に落ち着いた。レベルについては3と4がほぼ半々だった。印象としては転倒すると取りこぼしがあるという感じだ。
バレエをモチーフにしたこのプログラムはネイサンの個性にはよく合っていた。曲も定番曲と言われる(毎年誰かが使用している)ほどフィギュアではなじみがあるもので曲の盛り上がりを上手く使ったプログラムになっていたと思う。
 
FS
        基礎点   GOE   合計
フィンランディナT   4.6  1.20  5.80  レベル2
フランス杯   5.3  1.66  6.96  レベル3 
NHK杯    5.3  1.69  6.99  レベル3
G P F   5.3  1.80  7.10  レベル3
四大陸選手権  5.9  3.00  8.90  レベル4
世界選手権   5.9  1.90  7.80  レベル4
国別対抗戦   5.9  2.60  8.50  レベル4
平均    5.457 1.979 7.436
 
ステップについてはFSでもボーヤンに近い得点となっている。シーズン後半にレベルを揃えてきた。
コレオについては前半の高難度のジャンプ構成から印象を変えるために上手く使われており、StSqはジャンプが終わった後の最後のひとがんばりといった滑りになっていた。転倒があるとかなりきつそうだったがしっかりレベルを確保してきたことは評価できる。
 
<TES計>
SP  
        基礎点   GOE  減点    合計
フィンランディアT  51.35 -0.60 -1   49.75 
フランス杯  46.33  5.41  0   51.74
NHK杯   52.05 -3.50 -1   47.55
G P F  47.95 -2.33 -1   44.62
四大陸選手権 53.15  6.43  0   59.58
世界選手権  52.15  3.07 -1   54.22
国別対抗戦  49.85  7.32  0   57.17
平均    50.404 2.257 -0.571  52.09
 
転倒が半分合っても平均が50点を超えてしまうという高難度のメリットが見受けられる。そしてやっぱりボーヤンとあまり変わりない数字となった。
表彰台に上がるためにはSP100点を超える必要が出てきたシーズンとなったがそうするとやはり4Lzの基礎点が必要になる。国別では抜いてきたが怪我を治して来季も是非暴れて欲しいと願っている。

FS
         基礎点    GOE  減点     合計
フィンランディアT  104.45 -8.37 -2    94.08
フランス杯   96.70 -2.11 -2    92.59  
NHK杯   100.25 -2.34 -1    96.91
G P F  101.02 12.11  0   113.13
四大陸選手権 106.48  9.00  0   115.48
世界選手権  112.87 -2.26 -2   108.61
国別対抗戦   93.05  8.83  0   101.88
平均    102.117 2.123 -1   103.24 
 
基礎点100超えは構成が高い分ボーヤンよりも多い。しかし平均で1点ちょっとしか上回れなかったのはやはり転倒が多かったためだろう。転倒があるとGOEがマイナスになる可能性が高くなるので点数的には伸びなくなる。5つ6つ4回転を跳んでいる割には低いかもしれないがそれでもSPFS併せて1回程度に抑えないと大きな大会では表彰台は難しい。
ノーミスボーヤンのTESがネイサンの最高記録より上という結果を見るとやはり順位評価としては完成度が重要なので着氷含めて質と確率をもう少し上げたい。
 

<PCS>
SP
        SS  TR  PE  CC  IN  合計
フィンランディンT   7.58  7.25  7.54  7.71  7.67  37.75
フランス杯   8.18  7.89  8.43  8.36  8.25  41.11
NHK杯    8.18  8.04  7.89  8.14  8.14  40.39
G P F   8.18  7.96  8.04  8.32  8.18  40.68
四大陸選手権  8.68  8.50  8.93  8.75  8.68  43.54
世界選手権   8.64  8.43  8.61  8.68  8.75  43.11
国別対抗戦   8.46  8.21  8.61  8.29  8.54  42.11
平均       8.271  8.04  8.293   8.321   8.316  41.241
 
ボーヤンが1シーズン通して地味に点数を伸ばしたことに対してはネイサンの伸びは大きい。ボーヤンよりはジャッジ的評価の高い選手なのだろう。
バレエ音楽をバレエ的な振付で上手く見せたという効果もあったかもしれない。SPは来季そのまま持ち越しても良いかもしれないと思っている。
TESであまり代わり映えの無いボーヤンとネイサンだがPCSで若干差がついている。ジャンプを纏めるとポンと上がりやすい傾向があるのでPCSについてはボーヤンよりも有利に感じられる。

FS
        SS  TR  PE  CC  IN  合計
フィンランディアT   7.71  7.17  7.46  7.63  7.46  74.86 
フランス杯   8.11  7.61  7.96  8.07  7.93  79.36
NHK杯    8.54  8.32  8.25  8.46  8.46  84.06
G P F   8.46  8.11  8.79  8.46  8.39  84.42
四大陸選手権  9.00  8.75  8.89  8.93  8.86  88.86
世界選手権   8.54  8.39  8.32  8.64  8.50  84.78
国別対抗戦   8.50  8.07  8.50  8.29  8.32  83.36
平均       8.409  8.06  8.31   8.354  8.274   82.814
 
平均全て8点台とシニア1年目としては上々の数字。ボーヤンよりも2点ほど高い結果となっている。
ただFSはやはりバランスが悪い構成だし、構成を演技中に変えるためジャンプ中はそれだけになりやすい。来季も同じことをして同等の評価がされるかは未知数だ。
FSについては持越は無いと思う。今季は割とSPFSが似た印象だったので違った感じにしたいところだ。ネイサンについてはボーヤンと異なり王道曲も似合いそうだし、物怖じしない性格で年齢の割に大人びた身のこなしが出来るのでロックやジャズなどでも手くこなせそう。今季を引きずらない曲調になるといいと思う。
 

<来季に向けて>
とりあえずFSでバランスの取れた構成を作って欲しい。ラストにスピン纏めてこなしますというのはシニア選手としては印象が悪い。
速いテンポは盛り上がりやすいがスタミナが持たなくなるとこなしています感が感じられるのでその辺りを上手くフォローできる振付が出来ると良いかもしれない。
後はやはり着氷。前傾になる着氷はやはり膝に良くない。ほとんどが4回転の高難度であるので負担が大きすぎる。後方に流す着氷技術を磨いて欲しい。ボーヤンも昨季より改善傾向にあるのでネイサンも難度を上げるより完成度を上げて欲しいと願っている。