つれづれなるままに・・・

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全てはこの瞬間のために―――羽生結弦平昌五輪金メダル獲得に

ぶっちゃけていってしまうと私はソチ五輪が終わった次のシーズンが始まったときから平昌五輪で金メダルを取るのが羽生結弦に違いないと思っていた。本当に今回の平昌五輪が始まるまで一度もそのことを疑ったことは無かった。


一番大きな理由は結局のところ羽生結弦が最も今の現役プレーヤーの中で能力が高い選手だと思っていたからだ。
ソチ五輪の頃は明らかにスケーティングがパトリック・チャンに劣っていたがその次のシーズンには見違えるほど磨かれてきた。そして更に数年掛けて今では男子シングルで最も優れたスケーティングの持ち主になったと思っている。
更に構成を毎年上げてきていることも大きい。若手ではもっと高い基礎点のジャンプを飛ぶ選手がいるが、質と完成度を加味すれば羽生を上回れる選手はいないと確信できる。そして大舞台に強いという点、高難度構成でも何度もノーミスしてきた実績。
こういった諸々で羽生結弦を上回る選手はこの4年現れなかった。

五輪というのはフィギュアスケートにとって最高の舞台である。その舞台で与えられる金メダルは少なくともその競技の顔となるべき存在である。
結果に色々いわれたバンクーバーで示したかったのは闇雲に高難度を飛ぶことでは無く滑り・エレメンツの質・プログラムの密度全てが大事という競技の意思だったと思う。それがふさわしかったのはその当時のプルシェンコでは無くライサチェックだったということだろう。
そう考えれば今回の平昌五輪で金メダルを取るべき人物は羽生結弦以外に無い。平昌五輪が近づくにつれ私の確信はますます強まっていった。

 

確信の二つ目と言って良いのか微妙だが「ジンクス」の存在だ。
女子シングルにはあまりないのだが男子シングルに限っては五輪金メダルに関して幾つかジンクスと呼ばれるものがある。
細かいものまで上げるとかなり数があるのだがその中でも特に当てはまると言われているのが下記の3つである。

 

1.カナダ人で無いこと
2.10代でワールドのメダルを取っていること(金・銀・銅どれでも良い)
3.五輪の2シーズン以上前にワールドのメダルを取っていること(色は何でも良い)

 

今回の平昌五輪出場者30人に当ては待て考えると、1は二人のカナダ選手以外の28名、2はチャン・羽生・ボーヤン・宇野の4人、3はチャン・羽生・フェルナンデス・テン・ボーヤンの5人が該当する。
この3つの条件を全て満たすのは羽生とボーヤンの二人しかいないというわけだ。私が先の記事で表彰台候補にボーヤンを入れていたのはこういうジンクスの存在も大きかった。

カナダ人が金メダルが取れない理由については本当にわからない。ストイコ・オーサー・チャン、それ以外にも世界選手権で何度も金メダルを取っている選手がいるのになぜか五輪に相性が悪い。今回チャンが団体金を取ったことで今後変わることもあるかもしれないが平昌終了時点ではまだ継続したジンクスとなっている。

とにかく過去のデータ上よく言われるジンクスがこの3つであり全て該当する選手が二人しかいない、更にボーヤンが現時点で羽生を上回れる可能性が少ないという点で羽生が勝つ可能性がデータ上高いことがわかる。

 

更に羽生限定で五輪前に別のジンクスが二つ発生していた。


1つ目が4Loの最初の成功者という点。
実は2Loと3Loの最初の成功者である二人の選手とも五輪を連破している。そういったことからLoの初成功者は五輪を連破するというジンクスがあるのではと成功時に話題になった。今回羽生が実際連覇したことで次は5Lo成功者にこのジンクスが引き継がれたことになる。生きているうちにこれが続くのか確認できるかわからないが・・・

2つ目はヘルシンキワールドの金メダリストジンクスである。
第二次世界大戦後五輪の前にヘルシンキで世界選手権があったとき、その優勝者がその後の五輪で金メダルを取っているというもの。スコット・ハミルトンとアレクセイ・ヤクディンの二人しかいないのだが羽生が今回続いたことでこれは今後のジンクスとなっていくかもしれない。

 

五輪金のジンクスとしては直前のGPFで金の選手がとるというものもあったがプルシェンコトリノ金をその枠外でとっていたため今回出場していない羽生には当てはまらない。今回ネイサンが表彰台を外れたことで今後はあまり言われなくなるかもしれない。

 

ジンクスはジンクスでありGPF金のように違う結果を生み出すことは今後起こってくるだろう。ただ平昌開催前の状態でそのジンクスに最も当てはまっているのは羽生だった。そして今回その羽生がその通りにとったという事実はジンクス継続に大きな役割があったといえる。


3つ目は・・・きわめて個人的な出来事にあった。
昨年の10月の初め頃、二日で東京を5万歩以上歩く旅をしてきたと記事を書いた。この歩く旅は多少目的の場所はあるが基本東京の街をぶらぶら散策しているもの。こういう時よく立ち寄るのが神社仏閣である。実際この10月の時は特に多く15~16ほどの社を訪問した。
立ち寄ればもちろん参拝する。参拝すればもちろん願い事もする。色々な神社仏閣で様々なお願い事をした。そんな中2日目に立ち寄ったある神社で私はおみくじを引いた。数年前は1回の旅行で何度もおみくじを引いたのだが現在では1度だけ引くことにしている。その時はおみくじの箱に目がついた上野のある神社で引いた。
内容は「中吉」とまずまずいいものだったが頭をひねったのは「願事」の部分だった。それにはこう書かれていたのだ。
驚くことが起こりますが願いはかないます
実は引く直前にその神社で願ったことは、「羽生結弦選手が2月の平昌五輪で最高の演技をして五輪2連覇できますように」ということだった。
それに対しての返答のようなおみくじの内容で願いが叶うと書かれていたことは喜ばしいのだが気になるのはその前の「驚くことが起こる」という点だ。
おみくじを見て真っ先に思い付いたのは「もしかして羽生GPFに出られないってことじゃ・・・」ということだった。GPS開幕直前のことだったからそう思ったのだが羽生の出るロスレテコム・NHK杯のメンバーを思い浮かべて出れないということはないだろうとすぐに否定した。怪我や病気でもない限りGPFに出られない可能性はかなり低い。
「そうなるとGPF5連覇できないってことかなぁ・・・」
五輪直前のGPF金メダルの価値が高いことはジンクスとしてあることは知っていたから本当にそうならショックは大きいだろう。たとえそうであっても五輪で金を取ればその方がずっと価値が高い。だから仮にGPFで誰かに上回れても驚かないようにしよう、とその時には思ったのだ。五輪金が取れればいい、と。

そしてその後どうなったかはすでにご承知だろう。

あのニュースを聞いたとき私が願ったのは「欠場してくれ」というものだ。無理しないで怪我を直せば絶対大丈夫、と。実際おみくじのことはあのニュースを見るまで忘れていたのだ。五輪シーズンに怪我、なんて予想もするはずがなかったから。でも願いはかなうとあったのだから怪我さえ直せば大丈夫のはず、祈るような気分で欠場の報を待っていたことを覚えている。

NHK杯欠場は苦渋の選択だったのだろう。でもあれ以上の悪いことにならなかったとこは不幸中の幸いだったと今でも思っている。
あの神社には今度東京に行ったときお礼参りしなくてはいけない。羽生負傷の報に多くの人が神社仏閣に足を運んだと聞いている。きっと今頃神様たちは多くの感謝を受けていることだろう。


このように色々なことがあって、何より羽生の実力を信じていたので何が起ころうと私は羽生結弦が平昌五輪金メダルを取ることを全く疑っていなかった。
口の悪い人が羽生欠場の報道が出るたびに色々書いている文章を幾つも見たが、五輪で結果を出せば問題ないと確信していた。


そんな私が羽生が金メダルを取れないかも・・・と初めて不安に感じたのが2月16日の深夜だった。

すでに記事に書いた通りあの日私は仕事でリアルタイム観戦ができなかった。しかし結果はすぐにヤフーのトピックスに上がったので羽生が自己ベスト近い点を出しトップに立ったことはわかった。記事をいくつか目にしたが全く問題ない素晴らしい演技のようだったので帰宅後観戦することを楽しみに仕事を終わらせた。
そして帰宅後、入浴と食事をし地上波録画を最初から見た。

通常の試合で地上波録画を見るとき最近は演技しか見ないことが多い。しかし今回は五輪なのだ。雰囲気と点数の出方を見るために最初からすべて見ることにした。早送りしたのは中居君と女子アナたちが話しているところとCMと製氷部分だけ、30人すべて見終わったときあと数分で17日になるところだった。
ネットニュースでは素晴らしい演技・王者の帰還的に書かれていたが私には111点を超えたあの演技にそんなに浮かれた感想が全く抱けなかった。

羽生の演技を見た時の最初の感想は、「羽生の右足完治してないじゃん!」というものだった。公式練習で単発の4回転成功を見ているときには気づかなかったが試合の曲がかかった演技を見た時鳥肌が立つほどの違和感を感じた。あのSPの演技はリスフランを隠して出場した2016年の世界選手権SPを思い起こさせた。あの試合SPだけはまとめた演技ができたがFSはとても踏ん張れなかった。
ヘルシンキのFSを2000回以上見たのだ。羽生のいい状態のジャンプ着氷とは明らかに違うことがわかる。
完治していることを前提に金メダルは間違いないと思っていたからかなり私は動転したのだと思う。4分半持つのか?4Lzがない以上REPの危険性が発生する。もしかしたら4Lo抜いてそれが2倍になるかもしれない。まだ直っていない足首、おそらくそれほど通し練習もできていない状態でそれをクリアできるのか・・・様々な不安が猛烈に襲ってきた。
4年近くも確信していた分急に沸いたその不安はとても落ち着いていられるものではなかった。もんもんと色々な悪い予想が浮かんでしまい全く眠ることができなかった。

 

大丈夫かな?怪我が悪化しないかな?最後まで滑れるのかな?
そう思いながら2月17日10時からFSが始まった。ソチはあまりいい演技が残念ながら見られなかったが、昼開催のわりにはいい演技が数多く見られた。(この辺りの感想はまた別に)

そして1時40分過ぎに羽生登場である。
はっきり言ってしまうとこの時点で私はすでに疲れ切っていた。夜眠れなかったしそれでも五輪という大会は面白かったし・・・ついでに全選手見れるという長丁場だったから羽生が登場したときにはもうただただ頑張ってくれ、くらいのことしか考えられなかった。
出だしの4Sはまずまずいい出来、そして2番目の4Tはすごく軽やかな着氷とやはり羽生は凄いなぁと感心してみていた。心配していたのは後半の4Sと4Tのコンボとラストの3Lzだ。結局そのうちの2つをミスったが意地でも転倒しないという羽生の意志が感じられてこの子の精神力はどこまで強いのだろうと改めて実感した。
SEIMEIは2シーズン目でだがコレオステップからラストのスピンであそこまで表情を出したことは初めてだろう。勝ちたいんだ、自分が勝つのだというものすごい意志を受け止めた。これは2016年の世界選手権FSとは全く違う印象だった。

演技が終わって羽生が吠えた時、言い表せないほどのものを抱えていたんだなと実感した。その後に多少は出てくるかもしれないがそのほとんどはわからないだろう。
それは選手として五輪にかける気持ち以外のものも多かったはず。それらをすべて飲み込んで更に怪我が完治しない不安の残る状態で構成的にもかなり危険なものをREP1つと2Tマイナス、3Lzの着氷不良だけにとどめた・・・演技中は3Loに2Tつけろ!と思わず叫んでしまったがおそらく3Lzを降りれるかぎりぎりだったのだろう。それでもその2ジャンプ以外は加点が十分つくジャンプだった。つなぎも全く減らさなかった。中盤多少スピードが落ちたが最後まで集中した気迫のこもった演技だった。
言葉にするとなんと陳腐なと思うものしかない。自分が見たものはこんなものじゃなかったという気持ちが強い。しかし今はこれしか思い浮かばない。とにかく頑張った、精いっぱいやり遂げた、連覇を期待した人々に美しく強い姿を見せた。五輪という最高の舞台最高のプレッシャーを注目を浴びる場面で力を出し切ることができる、それがトップに立つ人というものなのだろう。どんな状況に陥ろうとも負けてもいいなんて姿勢は絶対に出さない。


羽生結弦選手、金メダルおめでとうございます!
あなたは現在のフィギュアスケート男子シングルにおいて最高のスケート技術と他に類を見ない表現力と不屈の闘志と精神力と五輪選手としての美しい姿勢と競技への深い愛を持った選手であると思います。
平昌五輪であなたの演技を見られて本当に幸せです。たくさんの感動とフィギュアスケートの深さを改めて感じました。
どうか怪我をしっかり直してこれからも素晴らしいフィギュアスケートを見せてください。

平昌五輪金メダル、66年ぶりの男子シングル連覇の偉業、素晴らしかったです。おめでとう、そしてありがとうございました!!